「パターソン」

主人公の夫婦を始め、人の会話はほぼいつも二人で行われる。内向的な夫と活動的な妻の会話は、映画の始まりから終わりまでまったく噛み合っていないが、互いに相手を想っていることは物語のなかで控えめに示される。

主人公がスマートフォンを持っていないという設定で、開始からしばらくの間はデジタル機器が登場しないので、時代設定がわからなかった。登場人物の服装も、街並みも、時代を示すものがはっきりと写っていない。現代を描いたものかもしれないし、もしかすると90年代前半くらいなのかもしれない。そう思いながら映画を見る感覚が面白かった(見直してみると、会話の中にSNSや動画サイトという言葉が出てきていた。また、車に詳しい人は年代がすぐわかるかもしれない)。

ある一週間の話で、月曜から金曜まで、主人公は同じように朝起きて、出勤し、バスを運転し、家路につき、夜は犬の散歩の途中でバーに立ち寄る。同じ行為が何度も繰り返される映画だ。それでも飽きずに見れるのは、ショットの良さと、地味さと間の抜けた感じが絶妙な、しかし面白い登場人物たちの会話のせいだろう。